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東京地方裁判所 平成6年(ワ)24325号 判決 1997年8月29日

原告

株式会社甲野

右代表者代表取締役

長谷川成弘

右訴訟代理人弁護士

湯一衛

湯博子

被告

国民生活センター

右代表者会長

鍜冶千鶴子

被告

瀬尾宏介

外三名

右五名訴訟代理人弁護士

桑原収

小山晴樹

渡辺実

堀内幸夫

青山正喜

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  被告国民生活センターは、読売新聞、朝日新聞、毎日新聞及び産経新聞の各全国版、東京新聞並びに被告国民生活センターの発行に係る機関誌「たしかな目」に、右各新聞については朝刊に二回、社会面広告欄に二段二分の一の大きさ、かつ、見出し並びに原告及び広告主は本文の活字の二倍の大きさの活字で、別紙1記載の謝罪広告を掲載せよ。

二  被告らは、原告に対し、各自一〇〇万円及びこれに対する被告瀬尾宏介、被告梶原義弘及び被告渡辺多加子は平成七年一月三一日から、被告国民生活センター及び被告遠山美知子は同年二月七日から、それぞれ支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、浄水器の販売代理店である原告が、被告らが共謀の上、原告の販売する浄水器の能力に関して行ったテストの結果に関して虚偽の内容をマスコミに発表してこれを報道させるとともに、被告国民生活センター(以下「被告センター」という。)の発行する機関誌にも掲載し、被告渡辺多加子(以下「被告渡辺」という。)にテレビのニュース番組に出演させて右浄水器の能力等について誹謗する発言をさせたことにより名誉・信用を毀損され、業務を妨害されたとして、また、被告センターが虚偽のテスト結果を監督権を有する官署に報告して業界に対する指導を求めたことは誣告にあたるとして、右名誉毀損については被告センターに対して新聞及び右機関誌への謝罪広告の掲載を求めるとともに、不法行為に基づく損害賠償として、被告らに対し各自一〇〇万円を支払うことを求めた事案である。なお、付帯請求の起算日は、いずれも訴状送達の日の翌日である。

一  争いのない事実等

1  当事者

原告は、浄水器「N」(以下「本件浄水器」という。)の総代理店としてこれを販売する株式会社である。

被告センターは、経済企画庁の外郭団体で、国民生活の安定に寄与するため、国民生活に関する情報の提供及び調査研究を行うことを目的として、国民生活センター法に基づいて設立された特殊法人であり、被告瀬尾宏介(以下「被告瀬尾」という。)は被告センターの商品テスト部の部長、被告梶原義弘(以下「被告梶原」という。)は同部企画室長、被告遠山美知子(以下「被告遠山」という。)は同部調査役、被告渡辺は同部調査役補佐であった。

2  テスト結果の公表等

(一) 被告センターは、平成六年七月から同年九月にかけて、浄水器四機種、すなわち、本件浄水器、セコム安全水ホームユニットWT―P0020(以下「セコム安全水ホームユニット」という。)、三菱ミネラル水生成器KJ―A30M(以下「三菱ミネラル水生成器」という。)及びMINETER―MPていれ(以下「ていれ」という。)とイオン整水器二機種、すなわち、アルカリ工房PJ―A30(以下「アルカリ工房」という。)及びアンジュAW―880(以下「アンジュ」という。)の合計六機種(ただし、そのほかに参考機種としてクリンスイLX713(以下「クリンスイLX」という。)、もテストされた。)の性能に関し、浄水器又は整水器を通過した水(以下「浄水」という。)中の一般細菌数及びミネラル分の増加等についてテスト施設内の水道水及び市販のミネラルウォーター(evian及び南アルプスの天然水)と比較するテスト(以下「本件テスト」という。)を行い、その結果を「ミネラルや制菌をうたった浄水器・整水器の商品テスト結果」と題する小冊子(以下「本件小冊子」という。)にまとめ、同年一一月七日、これを報道機関に発表した。

その結果、NHKでは同日午後七時、九時、一一時及び翌日午前六時のニュースで、フジテレビでも同月七日夜のニュースでそれぞれ右テスト結果について報道し、その際、本件浄水器の実物についても放映されたほか、産経新聞及び東京新聞は、翌八日の朝刊において右テスト結果を報道した。

また、同月九日発売の被告センターの発行している機関誌「たしかな目」一〇一号(平成六年一二月号)に右テスト結果が掲載された。

本件小冊子及びたしかな目一〇一号に掲載された記事には、左記の内容の記述が含まれていた。

(1) 本件浄水器による浄水については、水道法の水質基準を超える一般細菌が検出され、浄化どころか汚染されており、飲料水としては衛生的といい難く、表示どおりの抗菌力はなかった(以下「本件記述(1)」という。)。

(2) 本件浄水器による浄水については、カルシウムの量は水道水と変わらなかったので、表示どおりの効果はなかった(以下「本件記述(2)」という。)。

(二) 被告渡辺は、前記NHKのニュース番組に出演し、本件浄水器は、制菌や抗菌の効果がないのに効果があるように表示しているので、このような表現はやめてほしい旨発言した。

(三) 被告センターは、公正取引委員会、厚生省、農林水産省及び通商産業省に対し、本件小冊子を送付した。

二  争点

1  前記一2(一)及び(二)等の各行為は、原告の名誉・信用を毀損するか。

(原告の主張)

本件小冊子及びたしかな目一〇一号に掲載された記事には、本件記述(1)及び(2)のほか、「消費者から苦情や問い合わせの多い機種についてテストを行った。」との記述(以下「本件記述(3)」という。)があるところ、被告らは、共謀の上、本件浄水器について原告が公表している性能を誹謗することを目的として浄水器の苦情処理テストを企画し、何ら苦情のない本件浄水器をテスト対象機種に加えた上で右テストを行い、テストには受水槽の水を使用したにもかかららず水道水を使用したものとして、被告センター名義で本件記述(1)ないし(3)を含むテスト結果を前記のとおりマスコミや機関誌を通じて発表した。右内容は、一般消費者に対し、本件浄水器は苦情の対象となった機種である、本件浄水器の使用により雑菌が繁殖し、かえって飲料水として安全性を欠くことになる、また、本件浄水器は抗菌力及びカルシウム等のミネラル分の増加に関して説明書どおりの効果がなく不当な表示をしているとの印象を与えるものであり、これにより、原告は、名誉・信用を毀損され、その業務を妨害された。

(被告らの主張)

原告の右主張は争う。

なお、被告センターは、本件小冊子及びたしかな目一〇一号において、消費者から苦情や問い合わせが多いので、ミネラル類の生成機能や制菌力・抗菌力をうたった浄水器やイオン整水器についてテストを行った旨の記述をしたのであり、原告の主張する本件記述(3)のような表現はしていない。

2  本件テストは、公共の利害に関する事項につき公益目的をもってなされたか。

(被告らの主張)

被告センターは、国民生活の安定及び向上に寄与するため総合的見地から国民生活に関する情報の提供及び調査研究を行うことを目的としており、そのための根幹的な業務の一つとして、中立公正な立場で商品テスト及びその結果の公表を行っている。

本件テストについても、近年、水道水のおいしさや安全性に関心が高まり、浄水器等の水に関する商品の売上げが増加したことに伴い、消費者からの相談も増加していたところ、平成六年三月に、消費者団体から、ミネラル水ができ制菌力もあるという浄水器から水質基準を超える細菌が検出されたというテスト結果が公表されたことから、右浄水器並びにその他の浄水器及び整水器についても問い合わせが増加した。そこで、被告センターは、ミネラルや制菌・抗菌効果に関する表示のある浄水器について、カルシウム等のミネラル類を生成する機能及び制菌力等の衛生面の性能を中心にテストを実施し、経済性や表示についても誤認を与えるものがないかを調べ、消費者に広く情報を提供することを目的として本件テストを実施したのである。

このように、本件テストの実施及びその結果の公表は、公益にかなった正当な業務行為であり、違法性はない。

なお、被告センターには、特定の業者や商品を推奨し、あるいは特定の業者や商品に社会的制裁を加える意図などはなかった。被告センターが制菌力・抗菌力のテスト対象機種としたのは、浄水に制菌力・抗菌力がある旨の表示のある機種であり、他の機種は、制菌力・抗菌力のある素材を使用している旨の表示をしているにすぎず、両者の間には性能表示として明確な差があるから、右機種の選定についても不当な意図はなかった。

(原告の主張)

本件テストの対象機種のうち、クリンスイLX及び三菱ミネラル水生成器は「抗菌活性炭」、ていれは「抗菌不織布」という抗菌力を直接示す表示をしており、アルカリ工房は「中空糸膜」、アンジュは「銀添粒状活性炭」という実質的に抗菌力を示す表示をしていたにもかかわらず、被告センターは、本件浄水器とセコム安全水ホームユニットのみを制菌力・抗菌力に関する表示のある機種として取り上げている上、右二機種のうち、セコム安全水ホームユニットは販売が中止されており、実際に販売されていたのは本件浄水器のみであった。これに加えて、他のトリハロメタン、硝酸窒素、過マンガン酸カリウム等の危険な成分又は水をまずくする成分の除去能力については触れず、ことさら一般細菌について検査をしていること、たしかな目一〇一号の制菌力・抗菌力に関する記事部分において、本件浄水器から検出された一般細菌数について増加後の数についてのみ一四三〇という具体的な数字を記載するなど原告に不利な数字を強調し、他方、参考機種であるクリンスイLXを推奨する記述となっていること、事前に浄水器の製造・販売業者の意見を聞くことなく不利益なテスト結果を発表したことからみて、本件テストが公正さを欠き、本件浄水器の誹謗・中傷を目的としたものであることは明らかである。

3  本件テスト結果及び評価の真実性・相当性

(被告らの主張)

本件テストは、十分な知識と経験を有する担当者が、必要な設備、器具を使用し、一般的に相当と認められる手法・手順によって実施したテストであり、テスト結果は真実であるか、仮にそうでなかったとしても、真実であると信じるに足りる相当の理由があった。また、浄水が衛生的でないという記述並びにミネラル及び抗菌力に関して表示どおりの効果がなかった旨の記述(本件記述(1)及び(2))については、右テスト結果に基づく相当な意見である。以下、これを詳述する。

(一) テスト結果の真実性

(1) 実験担当者

本件テストを担当した被告渡辺は、昭和四九年に東北大学農学部農芸化学科を卒業後、微生物テスト、一般成分分析等の業務に従事し、本件テストに必要な学識、経験があった。

(2) 被告センターの設備

本件テストが行われた被告センターの商品テスト・研修施設内には、キッチン用品テスト室及び微生物テスト室があり、後者には、通常よりも能力の高い細菌テスト用クリーンルームが設置されていた。右キッチン用品テスト室にはクーラーが備え付けられており、クリーンルーム内も空調により室温は二二度(摂氏。以下同じ。)に保たれていた。

被告センターは、水道水をいったん施設内の受水槽に溜め、これを高架水槽を経由させて各蛇口に配水した水(以下「原水」という。)を本件テストに使用したが、原水については、六か月に一度は保健所により水道法で要求されている水質基準に関するテストを受け、水道水としての水質を維持するよう管理していた。

(3) テスト条件

一般消費者が家庭で使用することを想定してテスト条件を設定し、一般家庭では旅行等のために二、三日程度通水しないことが十分考えられることから、滞留時間を四八時間とした。そして、一般家庭において台所等にクーラーを設置していることは少なく、また、少なくとも夜間に台所を冷房することは稀であるから、夜間はクーラーを稼働させないこととした。

(4) テストの手法

被告渡辺は、採水前に、クリーンルーム、培地、実験台、水道水栓、手指について滅菌ないし消毒を行った上で、臨床検査用滅菌カップを使用して、蛇口に触れないように原水並びに通水中の浄水及び浄水器中に四八時間滞留させた後の浄水を採取した。その後、滅菌カップを密閉して、クリーンルームに移動し、原水、通水直後の浄水、これを二日間保存した浄水、浄水器中に四八時間滞留させた後の浄水について、それぞれ一般細菌数測定用標準寒天培地を加え、培養器内において三五度で二四時間培養した後、集落計数器を用いて、拡大鏡下で各シャーレの集落数(細菌数)を数える方法で一般細菌テストを実施した。また、カルシウムについては、試料を入れると自動的にデータが打ち出される検査機械(ICP)により測定した。

なお、蛇口の火炎滅菌については、他の水質検査機関でも行っていないから、被告渡辺がこれを行っていないとしても、テストとして相当性を欠くとはいえない。また、被告渡辺は、平成六年七月二五日のテストにおいて、本件浄水器から通水中の浄水を採取する前に五分間通水しているから、本件浄水器の容量に照らしてそれ以前の滞留水は排除されており、右浄水に滞留水は含まれていない。

(5) 実験結果

本件浄水器については、五分間通水した後の通水中に採取された浄水から一四三個(一ミリリットルあたり。以下同じ。)の一般細菌が、右浄水を二日間保存した浄水からは一四三〇個の一般細菌が、また、四八時間滞留後の浄水からは、通水開始直後のもの、通水開始から三〇秒後に採取したもののいずれについても一万個を超える一般細菌が検出された。他方、水道法四条二項に基づく水質基準に関する省令(平成四年一二月二一日厚生省令六九号)の水質基準(以下「水道法の水質基準」という。)で一般細菌は一〇〇個以内と定められているから、本件浄水器から水道法の水質基準を超える一般細菌が検出されたことは、真実である。

カルシウムについては、本件浄水器による浄水は15.9172ppm、原水は15.9018ppmであり、本件浄水器による浄水は、原水よりも0.0154ppmしかカルシウムが増加しておらず、この程度の増加は測定誤差の範囲内でもあるから科学的に有意の差とはいえず、通常人も変わりがないと考えるはずである。したがって、カルシウムが全く増加していないことは、真実である。なお、カルシウムの一日あたりの栄養所要量六〇〇ミリグラムに対し、右増加量は一リットルあたり0.0154ミリグラムであるから、栄養所要量の点からみても、カルシウムが増加していないことは、真実である。

(二) 水道法の水質基準を超える一般細菌が検出された事実から、飲料水として衛生的でなく汚染されており、また、本件浄水器には表示どおりの抗菌力がないとしたことの相当性

(1) 一般細菌は、特定の温度及び時間で培養した場合に培地上に集落を発現させる菌すべてを含む概念であるから、当然に無害であるわけではなく、その数が多いことは衛生的でないことを示すものであって、汚染の指標ともされている。

そして、浄水に水道法の適用はないものの、一般消費者は、水道水と浄水の安全性を比較して浄水器を使用するのであるから、被告センターが水道法の水質基準との比較において浄水の衛生面について本件記述(1)のとおり発表したことは、相当である。

(2) 水道法と食品に関する法律では立法趣旨が異なり、一般細菌数を規制する目的、テストの際の培養条件等も異なっている。また、我が国と諸外国では水道水の利用状況が異なる。したがって、他の法律や諸外国における一般細菌に関する規定と比較することは、意味がない。

(3) 原告は、大腸菌に対する抗菌力の表示のみならず、一般細菌に対する抗菌力を表示する説明書も配布していたのであるから、本件記述(1)は、相当な記述である。なお、水道水は、塩素消毒の結果大腸菌群が存在しないのであって、これを滞留させても大腸菌群が発生することはないから、大腸菌群についてテストをせずに抗菌力がないとしても相当である。

(4) 以上のとおり、被告センターが本件浄水器による浄水から水道法の水質基準を超える一般細菌が検出されたことをもって、飲料水として衛生的ではなく、表示どおりの抗菌力がないと記述したことは、相当である。

(三) カルシウムの増加について表示どおりの効果がなかったとしたことの相当性

本件浄水器の説明書には、ミネラルについて「溶出」という表現が用いられており、カルシウムを含めたミネラル分が増加する旨の印象を与えるから、カルシウムが増加しない事実をもって本件浄水器にはカルシウムの増加に関して表示どおりの効果がなかったとしたことは、相当である。

(原告の主張)

(一) 本件テスト結果の真実性

(1) データ自体の信憑性

被告センターは、本件テストのデータのうち、ナトリウムの数値を8.0から9.0に改ざんしている。また、原水の残留塩素濃度のうち0.4ppmの記載については、もとのデータが記載された書面に数値の記載がなく、原水がキッチン用品テスト室のあった研究棟から一〇メートル以上離れた事務棟に設置された高架水槽及び受水槽を経由した水道水であることからして残留塩素濃度が高すぎること、塩素を除去した水では一般細菌は当然増加するにもかかわらず、クリンスイLXについて四八時間滞留後に採取された浄水に水道法の水質基準以下の一般細菌しか存在しないとの常識に反する発表となっていること、被告センターの発表した一般細菌数のデータには六倍の格差があること、これらの事実は、被告渡辺の分析技術が未熟であるか、原水の汚染があったことを示しているのであり、被告センターの発表した数値の信用性は低く、本件テスト結果は、真実ではない。

(2) テスト方法の不相当・不公正さ

本件テストは、テスト条件が社団法人日本水道協会が定める給水器具型式審査基準(以下「型式審査基準」という。)におけるテスト条件すら満たしておらず不相当である。すなわち、被告センターの商品テスト棟は、夜間は冷房が切られていて、型式審査基準の条件である室温二五度を超えていた。滞留時間も二四時間ではなく四八時間と長すぎる。型式審査基準では、二四時間滞留後に製造者の指定する時間通水した直後の浄水について一般細菌テストを行うとされており、本件浄水器の取扱説明書には、使用開始時に一分間水を流すよう指示があるにもかかわらず、これを実施していなかった。更に、原水の残留塩素濃度も型式審査基準の1.8ないし2.2ppmを下回っていた。

そのほか、比較テストであれば、テスト対象機種すべてについて同時にテストを行うべきであるにもかかわらず、これを行わず、水道法の一般細菌テストで通常行われている火炎滅菌も行われていないこと、原水が高架水槽の水であること、無菌であるべき試験の原水に一般細菌が検出された水道水を使用していること、各蛇口毎に水質が異なるのであるから、各機種について各採水をするごとに水道水と同一の水質であったかを測定すべきであるにもかかわらず、これを行っていないこと、一般に販売されている全機種を対象としていないことなどを考えると、本件テストが不公正なものであって、テスト結果が真実でないことは明らかである。

また、本件浄水器は、平成六年七月五日に被告センターの実験室に取り付けられた直後に通水され、同月二一日のテストまで使用されていなかったから、本件テストに使用された浄水は、長期間本件浄水器中に滞留していた水であり、五分程度の通水では本件浄水器中の一般細菌は洗い流されないものもあるから、このような浄水を通水中の浄水として一般細菌テストの対象としたことは不相当である。

(3) カルシウムの増加

被告センターのデータによっても、原水のカルシウムは15.9018ppmであるのに対し、本件浄水器による浄水のカルシウムは15.9172ppmであり、増加していることは明らかであって、カルシウムが全く増えなかったとする本件記述(2)は、真実ではない。

(4) 他の検査機関のデータ

原告は、社団法人東京都食品衛生協会の東京食品技術研究所(以下「東京食品技術研究所」という。)その他の機関に対し、本件浄水器について一般細菌テストを依頼したところ、水道法の水質基準以内との結果であったから、本件テスト結果は、真実ではない。

(二) 水道法の水質基準を超える一般細菌が検出された事実から、浄水が汚染されており、また、浄水に表示どおりの抗菌力はなかったとしたことの相当性

(1) 一般細菌数を基準に浄水器の衛生面及び抗菌力を判断することの相当性

次のアないしカのとおり、一般細菌は、無害であり、仮に有害菌を含むとしても、種類や培養温度によって増殖する時間が異なり、細菌数を単純に比較することは意味がないから、一般細菌数を基準に浄水器の衛生面及び抗菌力を判断することは不相当である。

ア 一般細菌には病原菌が含まれておらず、有害ではない。すなわち、水道水においては、大腸菌群の存在をもって病原菌の存在を推定することが常識であり、一般細菌は水道水中に一〇〇個まで存在することが許されているのである。なお、水道法の水質基準における一般細菌数の規制は、現在では、専ら塩素消毒が有効になされているかについての判断の指標とされているだけであって、一般細菌が有害であることを示しているのではない。

イ 一般細菌数は、食品に関する各種法律の規制において、数十万ないし数百万個程度まで許容されている。

ウ 外国・WHOなどの水質基準でも、一般細菌の規制はなく、大腸菌を厳しく規制している。

エ 一般細菌は、空気中にも多数浮遊している。

オ 輸入ミネラルウォーターには、一般細菌に関する規制はない。

カ なお、被告センター自身、たしかな目六二号(平成三年五・六月号)において、ミネラルウォーターから一一九〇個の一般細菌が検出されたことについて、無殺菌と表示されていること及び大腸菌が検出されなかったことから特に衛生上問題はないと記述し、一般細菌は有害ではないとしていた。

(2) 水道法の水質基準との比較の相当性

浄水器から出た水は、水道法の規制の対象には含まれないのであるから、水道法の水質基準と比較すること自体が相当ではなく、仮に比較する場合には、テスト条件についても水道法の水質基準と同一にすべきであるが、本件テストは、テスト条件は一般の使用状況に合わせていながら、判断基準についてのみ水道法の基準を適用しており、不相当である。

(3) 大腸菌群に対する抗菌力を判断しない点の相当性

大腸菌群は、有害菌であるから、大腸菌群が増加しなければ抗菌力があることになる。また、原告は、本件浄水器の説明書でも大腸菌群が増加しないと記載しており、一般細菌については触れていないから、一般細菌を基準として、本件浄水器の抗菌力を判断することは、不相当である。

(4) 以上の点から、仮に本件浄水器による浄水に水道法の水質基準を超える一般細菌が存在していたとしても、衛生面で汚染されており、飲料水として好ましくない、また、表示どおりの抗菌力がないとした被告センターの発表は、不相当である。

(三) カルシウムの増加について表示どおりの効果がなかったとしたことの相当性

本件浄水器のパンフレットや説明書では、ミネラルバランスをとると表示しており、ミネラルを増加させるとは表示していない。本件浄水器は、ミネラルのバランスを整える浄水器であるから、ミネラルの量(数値)が増加しなくとも、原告の説明書の表示は、適切である。

4  前記一2(三)の行為は、原告に対する誣告にあたるか。

(原告の主張)

被告センターは、原告に対する行政指導又は処分の権限を有する前記一2(三)の各官署に対し、衛生面について、本件浄水器による浄水は好ましくなく、表示どおりの効果もなく不当表示であるとして、また、ミネラルの増加につき水道水との明確な差が認められず不当表示であるとして、それぞれ業界に対する指導を要望する旨記載された本件小冊子を送付したが、右記載は、虚偽のテスト結果に基づくものであるから、右送付は、原告に対する誣告にあたる。

(被告センターの主張)

原告の右主張は争う。

5  損害

(原告の主張)

(一) 原告は、前記各名誉毀損行為により無形の損害を被ったが、右損害を回復するには金銭賠償をもってしても足りず、別紙1のとおりの謝罪広告掲載による名誉回復処分を要する。

(二) 原告における本件浄水器の売上げは、前記各不法行為前の一年間は八三三万七三九九円、右不法行為後の一年間は一九七万四五一〇円であったから、原告は、右不法行為により、その差額である六三六万二八八九円の損害を被ったので、その一部である一〇〇万円を請求する。

(被告らの主張)

原告の右主張は争う。

第三  争点に対する判断

一  争点1について

1  本件記述(1)及び(2)について

(一) 証拠(証人湯〓博子、被告瀬尾本人、被告梶原本人、被告渡辺本人、被告遠山本人)及び弁論の全趣旨によれば、本件テストは、被告瀬尾、被告梶原及び被告渡辺が企画を、被告渡辺がテストを担当したこと、被告梶原、被告渡辺及び被告遠山は、平成六年一一月八日の浄水器の製造・販売業者らに対する説明会に出席して本件テストについて説明したこと、被告遠山は、本件テストがなされることは認識していたが、右企画及びテストには直接関与していなかったことが認められ、被告センターが本件記述(1)及び(2)を含む本件テストの結果を本件小冊子に記載して同月七日にマスコミに発表し、かつ、同月九日発売のたしかな目一〇一号に掲載もしたこと、被告渡辺がNHKのニュース番組に出演して前記第二の一2(二)の発言をしたことは、当事者間に争いがない。

(二) 右認定事実及び前記争いのない事実等によれば、本件記述(1)及び(2)を内容とする発表は、一般消費者に対して、本件浄水器の使用により一般細菌が繁殖し、かえって飲料水として安全性を欠くことになる、また、抗菌力及びミネラルの増加について説明書どおりの効果がなく、説明書において不当な表示を行っているとの印象を与えるもので、原告の社会的評価を低下させるものといえるから、原告の名誉・信用を毀損し、業務を妨害するといえる。

(三) 原告は、被告遠山がその余の被告らと共謀の上、前記第二の一2(一)及び(二)の行為を行った旨主張し、被告渡辺本人尋問の結果中にはこれに沿う部分がある。しかしながら、右供述部分は、被告遠山及び被告梶原の各本人尋問の結果に照らして採用できず、他に原告の右主張事実を認めるに足りる証拠はない。

2  本件記述(3)について

(一) 証拠(甲一の一、同六、同四二、同七五、同一一七)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(1) 被告センターは、たしかな目一〇〇号において、次号でミネラル水生成をうたった浄水器・イオン整水器について苦情処理テストを行う旨予告した。

(2) 本件小冊子には、テストの目的について左記アの、テスト対象銘柄について左記イの各記述がある。また、たしかな目一〇一号の記事の題名は「ミネラル水生成機能や制菌力をうたった浄水器とイオン整水器をテスト」であり、記事冒頭の対象機種の紹介部分に続いて「関心の高い浄水器・イオン整水器」との見出しのもとに左記ウの記述があり、本文中には「細菌汚染などの衛生面」の項について左記エの記述があるが、本件小冊子及びたしかな目一〇一号のいずれについても、左記の記述以外の部分には、本件テストが苦情処理テストである旨の記述、本件浄水器について苦情があった旨の記述及び本件浄水器が微生物の制菌作用をうたった機種である旨の記述はない。

ア 「水道水」について、おいしさや安全性に関心が高まり、浄水器やイオン整水器などの水関連商品が売上げを伸ばしているといわれる。

それに並行し、消費者からの相談も増加し、1992年度の国民生活センターに寄せられた、個別商品の件数集計の中で浄水器は1位、イオン整水器は3位と非常に多かった。

その内容としては、浄水器では医療用具でないにもかかわらず効能・効果に関するものや微生物の制菌作用などの衛生面に関する相談、イオン整水器では品質機能に対する件数の割合が他の商品の平均29パーセントに比べ51パーセントと特徴的に多くなっている。

最近では、「ミネラル水が作れる」、「ミネラルバランスを整える」という浄水器が登場し、また一方、「浄水も作れる」というイオン整水器が登場し、両者の区分がさらに不明瞭になってきていることも、相談が増加している一因と考えられる。

このような中で、1994年3月に消費者団体からミネラル水ができ、制菌力もあるという浄水器から水質基準を超える細菌が検出されたというテスト結果が公表され、新聞各紙を通じて報道された。それに伴い、相談窓口に同商品の相談が多数寄せられ、これが契機となって、他の浄水器、整水器に関しても問い合わせが増加した。

そこで、ミネラルと制菌効果に関する表示のある浄水器とイオン整水器について、カルシウムなどのミネラル類の生成機能及び制菌力等の衛生面を主体にテストを実施し、経済性や表示についても誤認を与えるものがないかを調べ、消費者に広く情報提供することを目的とした。

イ 新聞などの新製品情報や問い合わせの多い商品を参考に布場調査し、ミネラル又は制菌に関する表示のある連続式と貯槽式の浄水器各2銘柄及び浄水機能の付いた連続式のイオン整水器の2銘柄、計6社6銘柄をテスト対象とした。

ウ 飲料水のおいしさや安全性への関心が高まるとともに、浄水器やイオン整水器なども売上げを伸ばしている反面、これらの商品についての問い合わせや苦情も多い。

その内容は、浄水器では効能・効果や微生物の制菌作用などの衛生面に関するもの、イオン整水器では品質・機能に関するものが目立つ。特に最近では「ミネラル水が作れる」「ミネラルバランスを整える」という浄水器が登場し、一方イオン整水器にも浄水機能付きのものが出て、両者の区分が分かりにくくなっていることも、問い合わせや苦情が多い一因と言える。

'94年3月に、「ミネラル水」ができ「制菌力もある」という浄水器から水道水の水質基準を超える細菌が検出されたというテスト結果が、消費者団体から公表され、新聞などで報道されたことから、その浄水器への相談やほかの浄水器、整水器に対する問い合わせが、各地の消費生活センターに多く寄せられた。

そこで、今回、「ミネラル水生成」と「制菌効果」について表示されている浄水器とイオン整水器について、ミネラル水の生成機能や制菌などの衛生面を中心にテストしてみた。

エ 浄水器のうち、「セコム安全水ホームユニット」の取扱説明書(購入時)には、生成水に「細菌の繁殖を抑える『制菌力』があるので長期間保存できる」旨の記載があり、「N」には「浄水には抗菌力があり、浄水器の中の水は1週間経過しても大腸菌群が発生しない」「浄水で洗うとまな板、ふきんにカビが発生しない」という記載がある。そしてこれらの記載の根拠として、「ミネラルバランスが天然の水に近いので、制菌力につながる」などとある。はたして、記載どおり生成水に細菌の発生を防いだり、増殖を抑える力があるのだろうか。また、他の銘柄の生成水でも、細菌汚染の心配はないだろうか。

(3) 原告は、本件浄水器のパンフレットに「長期にわたって有害物質を除去できるのは石に棲みついている微生物の分解作用、酸素作用によるものと思われます。」と記載していた。

(二) 右認定事実によれば、被告センターがたしかな目一〇〇号において次号で苦情処理テストを行う旨予告したこと、本件小冊子及びたしかな目一〇一号には微生物による制菌をうたった機種について問い合わせが多い旨記載されていたこと、原告が本件浄水器のパンフレットにおいてろ過材の石に棲みついた微生物の分解作用を表示していたことが認められる。

しかしながら、本件小冊子の表題及びたしかな目一〇一号の記事の題名並びに両者の本文のいずれについても、本件テストが苦情処理テストである旨の記述、本件浄水器について苦情があった旨の記述及び本件浄水器が微生物の制菌作用をうたった機種である旨の記述はないのみならず、本件小冊子については、テスト対象機種は新聞などの新製品情報や問い合わせの多い商品を参考に市場調査をして選定したことが記載されていることに照らすと、右本件小冊子及びたしかな目一〇一号の記述等によっても、一般消費者に対し、本件浄水器が苦情のあった機種であるとの印象を与えるとまで推認することはできず、他にこれを認めるに足りる証拠はない。

したがって、本件記述(3)についての原告の主張は、理由がない。

二  争点2について

1  証拠(甲二、同六、同九、同一七、同一九、同三四、同四二、同八九、同九四、被告瀬尾本人、被告梶原本人、被告渡辺本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 本件テストに至る経緯

被告センターは、たしかな目五〇号(平成元年五・六月号)、同六二号(同三年五・六月号)において、浄水器について滞留水中の一般細菌の増殖やトリハロメタン、カビ臭成分、鉄分等を除去する性能等について幅広くテストし、その結果を掲載しており、滞留水中の一般細菌の増加については、同五〇号では全機種について、同六二号では一銘柄を除いて四八時間滞留直後の浄水から水質基準を超える一般細菌が検出された旨の記載がある。また、被告センターは、同八二号(同五年五月号)において、滞留水中の一般細菌数及びトリハロメタンを除去する性能等に関するテストを行い、その結果を掲載し、本件テスト後に発表された同一〇八号(平成七年七月号)においても、「残留塩素、トリハロメタン、農薬 浄水性能はどこまでアップ? 浄水器」と題した特集を組んでいる。

平成六年ころ、被告センターに対し、一般消費者から水道水の味や安全性についての問い合わせが増加していたところ、ミネラル水ができ制菌力もあるという浄水器から水質基準を超える細菌が検出されたというテスト結果が消費者団体から公表され、被告センターに対して右機種についての問い合わせがなされるとともに、浄水器一般についても性能の問い合わせや相談が増加した。そこで、被告瀬尾、被告梶原及び被告渡辺は、ミネラルと制菌力・抗菌力について表示されている機種の性能についてテストする企画を立て、これを実施することにした。被告渡辺は、機種の選定を担当し、スーパーマーケットやデパートの店頭で販売されている機種を調査した上、右表示のある機種を選定した。ただし、セコム安全水ホームユニットは、本体の販売が中止されており中古品であったが、同機種に対する問い合わせが多く、カートリッジの販売が継続されていたことから、テスト対象機種とした。また、被告渡辺は、右制菌力・抗菌力及びミネラルに関する表示があるテスト対象機種と比較するために、右表示がない機種を参考品としてテストすることとし、一般的な機種としてクリンスイLXを選定した。

被告センターでは、公正さを保つため、企画段階からテスト結果の発表までの間、製造・販売業者との接触はしないことにしていた。その上で、テスト結果について業者から反論があった場合には、テスト後の説明会において説明をし、また、右業者から意見書を出してもらい、これを次々号の「たしかな目」に掲載することとしており、本件テストについても、たしかな目一〇三号(平成七年二月号)に原告ら業者の反論を掲載した。

(二) 本件テスト結果の記載

被告センターは、本件テストにおけるテスト対象項目を、ミネラル水生成機能に関してカルシウム量及びその他のミネラルの増加、衛生面に関して制菌力・抗菌力の有無並びに通水中及び滞留水の細菌汚染、アルカリ強度に関して水素イオン濃度及びアルカリ度、制酸力の目安、浄水性能に関して残留塩素の除去と設定した。

本件小冊子には、実験結果の一覧表が記載され、連続通水時の細菌汚染について、本件浄水器、セコム安全水ホームユニット、ていれ、アンジュの四銘柄から水道水の水質基準を超える一般細菌が検出され、参考品を含む他の三銘柄は水道法の水質基準内であったと記載されており、また、三菱ミネラル水生成器については、四八時間滞留後に採取された浄水についても水道法の水質基準を超える一般細菌が検出されず、衛生面で品質が優れている旨記載されている。

たしかな目一〇一号にもテスト結果一覧表が記載され、前記テスト項目のうち、制菌力・抗菌力があるかという項目については、本件浄水器及びセコム安全水ホームユニットについてのみ×印が付けられているが、通水中及び四八時間滞留後の細菌汚染に関する二項目については、テスト対象機種全部について×又は○印によりテスト結果が記載されており、クリンスイLXは通水中の細菌汚染について○、滞留後の細菌汚染について×、三菱ミネラル水生成器は通水中及び滞留後の細菌汚染のいずれについても○とされている。また、対象機種の紹介部分には、ろ過材等について、クリンスイLX及び三菱ミネラル水生成器は「抗菌活性炭」、ていれは「抗菌不織布」、アルカリ工房は「中空糸膜」、アンジュは「銀添粒状活性炭」をそれぞれ使用している旨の記載がある。

2  前記一2(一)及び右1の認定事実によれば、被告センターは、一般消費者からの相談が多く、その関心の高い浄水器等の性能について、制菌力及びミネラル水の生成について表示のある一浄水器が問題とされたことを契機として、右表示のある他の浄水器も合わせて本件テストを行い、右経緯を本件小冊子及びたしかな目一〇一号に本件テストの目的として記載しているほか、本件テスト後も従前の方針に従い、たしかな目一〇三号に原告ら業者の反論を掲載しているのであり、これらを併せ考慮すれば、被告センターが消費者の健康に影響を及ぼす浄水器の性能という公共の利害に関する事項について、一般消費者に情報を提供するという公益を目的として本件テストを行ったことが認められる。

3  これに対し、原告は、本件テストは本件浄水器の誹謗・中傷を目的としたものであると主張するので、以下検討する。

(一) 前記一2(一)及び二1の認定事実によれば、本件小冊子及びたしかな目一〇一号には、被告センターが制菌力・抗菌力の表示のある機種として本件浄水器及びセコム安全水ホームユニットのみについて浄水の制菌力・抗菌力についてテストをしたと記載されてはいるものの、他方において、ろ過材については三菱ミネラル水生成器、クリンスイLX及びていれについて抗菌の表示がなされていることが認められ(なお、アルカリ工房及びアンジュの表示は、抗菌の文字は使用されていないことから、直ちに抗菌表示のある機種とは認められない。)、また、前記1の認定事実によれば、セコム安全水ホームユニットは、本件テスト当時は本体の販売が中止されていた。

しかしながら、証拠(甲六、同四二)によれば、本件小冊子及びたしかな目一〇一号の本件テストに関する記事の各内容全体に照らし、本件浄水器及びセコム安全水ホームユニットのみが浄水に抗菌力又は制菌力がある旨の表示のある機種であるので、制菌力・抗菌力のテストは、右二機種に限定して行われたことが明らかである上、前記1の認定事実によれば、制菌力・抗菌力の有無に関する項は本件浄水器とセコム安全水ホームユニットについてのみ記載されているものの、その評価の基礎となる細菌汚染の項についてはテスト対象機種すべてがテストされ、その結果が記載されているのであり、また、セコム安全水ホームユニットは、本体の販売が中止されていたものの、カートリッジの販売が継続されていたのであるから、機種紹介欄においてろ過材について抗菌の表示のある機種について本文中又は実験結果一覧表の制菌力・抗菌力表示の欄で取り上げず、セコム安全水ホームユニットの本体の販売が中止されていた事実があるとしても、このことから直ちに本件浄水器を誹謗・中傷しようとする目的があったということはできない。

(二) 次に、テスト対象項目について検討するに、前記1の認定事実によれば、被告センターは、本件テストではトリハロメタンを除去する性能等についてはテスト対象項目としていない。

しかしながら、被告センターは、これまで行ってきた他の浄水器のテストにおいてはトリハロメタンやカビ臭をテスト対象項目としていること、本件テストの目的が制菌力・抗菌力及びミネラルに関する表示のある機種について性能が表示に適合しているかどうかを検査することにあり、本件テストの項目は右目的に即していること、本件テストでは、他に残留塩素濃度やアルカリ強度もテスト対象項目とされていることに照らすと、右テスト対象項目から本件浄水器を誹謗・中傷しようとする目的があったということはできない。

(三) たしかな目一〇一号における記事の記載方法が一般細菌数について原告に不利な記載であるとの点について検討するに、証拠(甲六)によれば、たしかな目一〇一号の「浄水器中の水に抗菌力・制菌力はなかった」とする箇所のグラフにおいて、右肩上がりの線の右上端にNとして1.4×10の三乗の記載はあるものの、増加前の数字の記載はないが、右グラフの縦軸に一般細菌数として〇、一〇の二乗、一〇の三乗、一〇の四乗の目盛り、横軸に保存日数の記載されていることが認められるのであるから、右表示方法が特段原告に不利であるとは認められず、右表示方法から不当な目的があったということはできない。

(四) 本件テストは、クリンスイLXを推奨することを目的としていたとの点について検討するに、確かに、クリンスイLXについては、前記1で認定のとおり、本件小冊子及びたしかな目一〇一号において、細菌汚染は○と記述されているのであるが、他方において、滞留水の細菌汚染は×とされているのであり、また、証拠(甲三ないし五、同一一ないし一三、同五二の一ないし六)によれば、マスコミにおいては、個別の浄水器名を挙げずに浄水器に雑菌が繁殖する旨報道していることが認められ、クリンスイLXについても性能を疑問視されるおそれがなかったとはいえないことからすれば、本件テストの目的が右機種の推奨であったとはいえない。

なお、証拠(甲五九)によれば、クリンスイLXの製造元である三菱レイヨン株式会社は、取引先に対し、国民生活センター商品テスト結果の件と題する書面を送付し、右書面には「一部のマスコミ報道にてすべての浄水器が衛生面で問題があるかの誤解を招くような表現がありました。(中略)お客様への対応方、よろしくお願い申しあげます。」などと記載されていることが認められるのであり、右書面は、その文面及び送付先に徴し、マスコミの報道による被害を防止するための書面であって、被告センターの本件テスト結果をもって右機種を積極的に売り込むための書面ではないと認められるから、右書面の送付は、前記2の結論に影響を及ぼすことはない。また、本件小冊子において品質が優れているとされた三菱ミネラル水生成器についても、同機種についての本件テストの結果が真実でないと認めるに足りる証拠はないから、結果的にこれを推奨する記述がなされたとしても直ちに不当な目的があったということはできない。

(五) 原告ら業者に対して事前に反論の機会が与えられなかった点について検討するに、証拠(甲九)によれば、東京都生活物資等の危害の防止、表示等の事業行為の適正化及び消費者被害救済に関する条例(昭和五〇年一〇月二二日東京都条例第一〇二号)には、知事が消費者の健康を損なう疑いがある物資を供給する業者に対して、当該物資が安全である旨の立証を要求することができ、業者がこれに従わない場合に再度立証を要求するとき等には、当該業者に対して聴聞を行わなければならない旨の規定がある。

しかしながら、被告センターによる本件テスト結果の発表と右条例の規定が適用される場合とでは主体・対象・目的等が異なるのであり、本件テストの結果を発表する前に業者と接触しないことで公正さが保証されるともいえるのであって、これと、前記1で認定した被告センターが業者と事前の接触をせず、テストの結果発表後に業者からの反論を機関誌に掲載する方針を採用しており、本件テストの結果発表後においても原告ら業者の反論をたしかな目一〇三号に掲載した事実を併せ考慮すると、原告に対して事前に反論の機会を与えなかったことをもって、不当な目的があったとはいえない。

(六) 以上のとおりであるから、本件浄水器を誹謗・中傷する不当な目的で本件テストが行われたということはできない。

三  争点3について

1  本件テスト結果の真実性について

(一) 証拠(甲一の一ないし四、同二、同五三、同一〇八、乙八ないし二一、同二三、同四一、証人鈴木昌二、被告瀬尾本人、被告梶原本人、被告遠山本人、被告渡辺本人)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(1) 本件テストに至る経緯及びテスト条件の設定

被告瀬尾、被告梶原及び被告渡辺は、遅くとも平成六年七月初旬までに、浄水器及びイオン整水器のうちミネラルと制菌力・抗菌力について表示してある機種についてテストする企画を立て、これを実施することにした。テスト条件としては、一般の家庭における使用状況を想定し、週末などに二日間程度使用しない場合もありうることから、通水中及び四八時間滞留後の浄水についてテストを行うこととし、また、夜間は冷房が行われていないことが通常であることから、クーラーを稼働させないこととした。

(2) 実験担当者

本件テストにおいては、被告渡辺が対象機種選定のための市場調査からテストまで担当した。被告渡辺は、昭和四九年に東北大学農学部農芸化学科を卒業後、同年から日本コカコーラ株式会社原液品質管理課に勤務し、昭和五三年以後は被告センター商品テスト部に勤務して、理化学テスト及び細菌テストを担当してきた。

(3) テスト室及び水道水の状況

本件テストは、神奈川県相模原市所在の被告センターの商品テスト施設において行われたが、テスト棟内には、キッチン用品テスト室とクリーンルームが設置されており、前者で採水、後者で一般細菌テストが行われた。クリーンルーム(DALTON製、CLASS一〇〇〇〇)は、昭和五三年の被告センターの建物建築当時に設置された。

キッチン用品テスト室は、被告センターの施設管理部門により基本的には常温・常湿が保たれるよう管理されており、午前九時から午後五時までクーラーで温度管理がなされていたが、夜間は、クーラーを稼働させていなかった。なお、被告渡辺は、各テスト開始時である午前一〇時に室温及び水道水の水温を測定していたところ、平成六年七月二一日から翌月三一日までの室温は二六度ないし二九度であった。

被告センターは、相模原市の水道水を施設内の受水槽に溜めて、これを高架水槽を経由させて各蛇口に配水していたが、毎日残留塩素の検査をし、定期的に相模原保健所の水質検査を受けていた。テスト室には四つの蛇口があり、これらに浄水器を取り付け、コックにより浄水器に通水するか、そのまま放水するかを切り替えていた。

(4) テストの手法

被告渡辺は、次の各方法で本件テストを行い、採水は午前中に、各種テストは午後に行った。テストデータは、被告渡辺がメモを作成し、アルバイトがこれをワープロに入力して印刷した。

ア 採水

被告渡辺は、アルコールに浸した滅菌消毒綿で実験台及び水道水栓の周りを拭き、手指もアルコール綿で拭いてから、臨床検査用の蓋のついた二〇〇ミリリットルの滅菌カップ(栄研化学株式会社製臨床検査用カップ)の蓋の一部分を開き、浄水器・整水器(本件浄水器は、平成六年七月五日に設置された。)ないし蛇口に触れないようにしながら約一八〇ミリリットル採水した。なお、各採水の際の通水時間は、アルバイトがストップウォッチで計測した。

採水した滅菌カップは、蓋をして室内の冷蔵庫に保存し、採水終了後にラボカートに乗せて三〇メートル離れたクリーンルームに移動した。

イ 一般細菌テスト

被告渡辺は、一般細菌テストの前日に、標準寒天培地を作成して滅菌し、翌朝に医療用の煮沸消毒器で溶かして一定温度にしておいた。そして、クリーンルームの準備として約一〇分間紫外線滅菌等を行い、エアコンを稼働させ、フィルターを通して部屋に空気を送るようにした上で、準備室で履物を履き替え、細菌テスト用に紫外線滅菌灯で照射された無塵衣という襟のついた白衣を着て、頭に紐のついた帽子を被り、手指をアルコール綿で拭いてからクリーンルームに入り、原水及び浄水は、パスボックスという差入口を通してクリーンルームに入れた。なお、被告渡辺は、マスクはしていなかった。

被告渡辺は、まず、採水した浄水及び原水を分けて、その一部に滅菌生理食塩水を加え、クリーンルーム内のブレンダーで震とう撹拌して希釈した。希釈については、シャーレ上の一般細菌の集落が三〇〇個程度までしか数えることができないため、検出される集落が三〇〇個程度になるように複数の希釈倍率のものを作成することにしており、本件テストでは、四倍、一〇倍、一〇〇倍に希釈し、全く希釈しないものと合わせて合計四段階の検体を各二枚作成した。これらを一ミリリットルずつシャーレに入れ、約五〇度の溶かした標準寒天培地を加えて混釈し、熱抜きのためにシャーレの蓋をずらしてから蓋を閉めた。その後、シャーレを培養器(株式会社島津製作所製BITEC―四〇〇)に入れて三五度で二四時間培養し、数えることが可能な集落数のものを選択して、コロニーカウンターを用いて一般細菌の集落数を数えた。

被告渡辺は、一般細菌テストはすべて一人で行ったが、クリーンルームに入ってから培養器にシャーレを入れ終わるまでは約一時間半を要し、その間、原水及び浄水をクリーンルーム内の冷蔵庫に保存していた。また、翌日、一般細菌の集落数を数えるには全体で約二時間を要した。被告渡辺は、一般細菌数を数えることができた検体について、検出された一般細菌数、希釈した検体は希釈倍率、並びに、これらの数値について希釈されたものについては希釈前の数値に計算し直した上で、検出された一般細菌数の平均値を記録した。

ウ ミネラル量のテスト

ミネラルは、採水の翌日に、カルシウム、マグネシウム、カリウム、ナトリウムについて、ICPというテスト結果について自動的に印字する機械で測定した。

エ 残留塩素濃度のテスト

オルトトリジン溶液という試験液を比色管に一ミリリットル入れ、これに原水又は浄水二〇ミリリットルを加えて、その発色の度合を色見本と比較する方式で遊離残留塩素濃度を測定した。

(5) テスト結果

被告渡辺は、次のテスト日(いずれも平成六年)に各実験を行ったところ、その結果は、次のとおりであった。

ア 一般細菌数

対象

テスト日 希釈倍率  個数(二検体)

・浄水(本件浄水器)

五分間通水後

七月二五日 希釈せず  一四〇 一四五

二日間保存したもの

七月二七日 四倍  九五 二二五

一〇倍  二一四 二三〇

五分間通水後

八月一七日 一〇倍  一二三 一四八

四八時間滞留後、通水再開一〇秒後

八月一九日 一〇〇倍 いずれも一〇〇以上

(ただし、多すぎるので一〇〇〇個として記録した。)

四八時間滞留後、通水再開直後

八月二六日 一〇〇倍 いずれも一〇〇以上

(ただし、多すぎるので一〇〇〇個として記録した。)

四八時間滞留後、通水再開一分後

八月二六日 四倍  二五二 二四八

四八時間滞留後、通水再開三分後

八月二六日 希釈せず  四二二 四五二

・原水

七月二五日     検出せず 一

七月二七日     検出せず 一

八月一七日     検出せず 検出せず

通水開始直後

八月二六日       一九 二〇

通水開始一分後

八月二六日     検出せず 検出せず

通水開始三分後

八月二六日     検出せず 一

イ カルシウム量(八月一七日)

原水 15.9018ppm

本件浄水器 15.9172ppm

ウ 残留塩素濃度

原水

七月二二日 0.15ppm

原水

七月二五日 0.2ppm

原水

八月一七日 0.4ppm

本件浄水器

七月二二日 0ppm

(6) その他

水道法四条一項一号は、「病原生物に汚染され、又は病原生物に汚染されたことを疑わせるような生物若しくは物質を含むものでないこと。」と規定し、これに基づく前記省令では、同号の要件として、一般細菌について一ミリリットルの検水で形成される集落が一〇〇個以下であることと定めている。

また、水道法施行規則一六条は、水道法二二条の規定により水道事業者が講じなければならない衛生上必要な措置について規定しているが、同条三号では、「給水栓における水が、遊離残留塩素を0.1ppm以上保持するように塩素消毒すること。」と定めている。

上水試験方法では、一般細菌のテスト方法について、標準寒天培地を用いて混釈平板を作成すること、希釈については、一〇倍希釈法をとること、検水及び希釈検水についてペトリ皿二枚以上に一ミリリットルずつ採り、標準寒天培地約一五ミリリットルを加えること、三五度ないし三七度で、二二時間ないし二六時間培養すること、給水栓から採水することが指示されている。

たしかな目一〇一号のテスト結果一覧表には、本件テストの結果に基づく他のテスト対象機種のカルシウム量についても記載されているが、これによると、原水の0.8倍ないし1.3倍のものがあり、参考品であるミネラルウォーター二銘柄のカルシウム量は、原水の0.6倍ないし4.7倍である。なお、カルシウムの一日あたりの所要量は、六〇〇ミリグラムである。

財団法人日本食品分析センター(以下「日本食品分析センター」という。)で浄水器の性能テストを行う場合においても、水道水栓の火炎滅菌を行っておらず、また、原水として高架水槽を経由した水を使用している。

(二)  本件テストは、細菌ないし水の成分に関するテストであり、本件テスト結果が真実であるか否かを肉眼で検証することは不可能であるから、テスト目的に照らしてテスト方法が相当であれば、結果についても真実であるというべきである。

これを本件についてみると、前記認定事実によれば、本件テストは、実験担当者として十分な知識と経験のある被告渡辺が、各種テスト用の専門的な設備・器具を使用して適切な手順に従って行った実験であり、一般細菌テストについては、希釈について四倍希釈が含まれている点を除いては、概ね上水試験方法に従って行ったのであり(なお、上水試験方法では、給水栓から採水するとしているが、本件テストは、浄水器を対象としたテストであるから、給水栓から採水しないことはテストの性質上当然である。)、また、カルシウムのテストについては、自動的に結果が印字される分析用の機械を用いて行われているのであるから、その目的に照らしてテスト方法は相当であると認められ、したがって、その結果も真実と認められる。

そして、本件テストの結果によれば、本件浄水器の通水中の浄水及び四八時間滞留後の浄水から水道法の水質基準である一〇〇個を超える一般細菌が検出されたことが認められ、また、カルシウム量については、原水は15.9018ppmであり、本件浄水器による浄水は15.9172ppmで、原水よりわずか0.0154ppm増加しているにすぎないのに対し、他の浄水及び参考品のミネラルウォーターでは、原水の0.6ないし4.7倍もの差が生じていることが認められる。

(三) これに対し、原告は、本件テスト結果は真実でないと反論するので、以下これを検討する。

(1) 原告は、被告センターがナトリウムの数字について改ざんしたと主張し、証拠(甲七の二、乙一五、同一九、被告渡辺本人)によれば、被告センターから原告に対して本件テスト後に送られたデータ(甲七の二)及び被告センターにおいてワープロで作成したテスト結果の一覧表(乙一九)には、原水のナトリウムが9.0ppmと記載されているが、原水のナトリウムは8.01222ppmであったことが認められる。しかしながら、前記認定のとおり、被告センターでは、ナトリウムを含むミネラル量は、測定した機械により自動的に印字され、これをアルバイトがワープロに入力していたところ、証拠(乙一五、被告渡辺本人)によれば、右機械により印字された分析結果表(乙一五)には、原水のナトリウムは8.01222ppmである旨記載されており、これを前記各書面(甲七の二、乙一九)に転記する際に、誤って記載されたのであって、テスト結果自体に改ざんがあったのではないと認められる。

原告は、原水の残留塩素濃度が0.4ppmであるとするデータについても信用性が低いと主張するが、証拠(乙一八、同一九)によれば、本件テスト後に作成されたテスト結果表(乙一八、同一九)には、原水の平成六年八月一七日の残留塩素濃度として0.4の記載があることが認められること、前記(一)の認定事実によれば、被告渡辺が測定したその余の原水の残留塩素濃度は、いずれのデータについても水道法施行規則に定められた通常の残留塩素濃度の範囲内であるから、ことさら0.4ppmのデータについてのみ改ざんすべき必要性は考えられないこと、これらに加えて、もとのデータが異なる数値であるか、若しくは、残留塩素濃度についてテストがなされていないこと、又は、受水槽及び高架水槽を経由した水道水について残留塩素濃度が0.4ppmであることが異常であることを認めるに足りる的確な証拠はないことに照らすと、残留塩素濃度のテスト結果について改ざんがあった、又は右残留塩素濃度の数値が信用できないとはいえない。

クリンスイLXについて滞留水から水道法の水質基準内の一般細菌しか検出されなかったという本件テスト結果は常識に反するとの原告の主張については、前記二1の認定事実によれば、クリンスイLXの滞留水からは、右水質基準を超える一般細菌が検出されており、原告の右主張は、理由がない。これを三菱ミネラル水生成器に関する主張と善解してみても、残留塩素が除去された水については、一般細菌が増殖する可能性は否定できないが、右機種の滞留水の衛生面に関する性能については必ずしも明らかではなく、また、前記(一)の認定事実によれば、被告渡辺は、相当な方法で採水及び一般細菌テストを行っているのであるから、右機種の滞留水から右水質基準内の一般細菌しか検出されないことが常識に反するとまではいえず、本件テストのデータが信用できないとはいえない。

また、前記(一)の認定事実によれば、平成六年七月二七日のテストにおける一般細菌数は、四倍希釈の場合に九五個と二二五個(希釈しない浄水に引き直すと三八〇個と九〇〇個)であり、一〇倍希釈の一検体での二三〇個(希釈しない浄水に引き直すと二三〇〇個)と比較すると、2.6倍ないし六倍程度の格差があるが、一〇倍希釈の二検体について、ほぼ同数の一般細菌が検出されているのであるから、右四倍希釈の検体相互及び一〇倍希釈の検体との誤差が大きいことをもって、直ちに本件テスト結果の信用性が低下するということはできない。なお、前記(一)で認定した事実関係、特に原水の残留塩素濃度、水道法施行規則一六条の規定等にかんがみると、本件テストに使用された原水がテストの結果に影響を及ぼす程度に汚染されていたともいうこともできない。

(2) 次に、テスト方法に関する原告の批判について検討する。

まず、本件テストは型式審査基準とテスト条件が異なるとの原告の主張について検討するに、室温、滞留時間及び滞留後に業者の指定する時間通水していないことについては、前記二1及び三1(一)の認定事実によれば、本件テストの目的は、一般消費者に情報を提供することにあり、右テスト目的に沿って一般の使用状況下での本件浄水器の衛生面等を判断するためのテスト条件が設定されたのであるから、型式審査基準と条件が異なることは当然であり、残留塩素濃度についても、証拠(甲二二の一)によれば、塩素濃度1.8ないし2.2ppmとする型式審査基準では、塩素除去能力を判定するためにことさら塩素濃度の高い水を実験に用いているものと認められるのであるから、テストの条件が異なるのは当然である。したがって、本件テストは、型式審査基準とテスト条件が異なるとしても、不相当なテストであるとはいえない。

また、各機種のテストが同時に行われていない点については、本件テストは、水道法の水質基準に規定された一般細菌数ないし原水のミネラル量という客観的な基準と右項目に関する各浄水の数値と比較することにより各浄水器・整水器の性能を判断するテストであり、各浄水器・整水器における数値を比較して相対的に各浄水器・整水器の性能を判断する比較テストではないこと、これに前記(一)で認定したとおり、各種テストの設備・器具等が各機種について同一であったことを併せ考慮すると、テスト対象機種すべてについて同時にテストを行わなければ相当性を欠くとはいえない。

原水が受水槽及び高架水槽を経由した水道水である点について検討するに、証拠(甲三六)によれば、タンク水を七日間培養したテストでは、残留塩素濃度0.4ppmの場合86.7パーセントの検体から一ないし六〇〇個の、0.2ppm以下の場合すべての検体から四ないし一三〇〇個の一般細菌が検出されたことが認められる。しかしながら、前記(一)で認定したとおり、本件テストにおける検体の培養時間は二四時間であって、右タンク水のテストとは培養時間が全く異なるから、七日間培養後のタンク水から前記数値の一般細菌が検出されたとの結果から、本件テストにおける原水が不相当であったとはいえない。ちなみに、前記(一)の認定事実によれば、本件テストにおいて使用された原水については、いずれのテストにおいても、殆ど一般細菌は検出されなかったことが認められる。

火炎滅菌が行われていなかった点について検討するに、前記(一)で認定したとおり、被告渡辺は、採水にあたり水道水栓を滅菌消毒綿で拭いていたのであり、日本食品分析センターで浄水器の性能テストを行う場合においても、水道水栓の火炎滅菌を行っていないのであるから、火炎滅菌を行わなくとも衛生面で不相当であるとはいえない。

原水が無菌状態ではなかった点については、前記のとおり、本件テストは、一般消費者に対する情報提供を目的とし、一般消費者の使用状況に合わせてテスト条件が設定されていたのであり、また、後記のとおり、一般細菌が検出されないとしても、当該条件下における水中に細菌が全く存在しないわけではないから、原水が無菌状態である必要性はない。

テスト対象機種が一般に販売されている全機種でないとの点についても、そもそも、全機種についてテストすることは現実的ではなく、商品のテストは、テスト目的に沿って対象機種が選定されるものであるから、選定方法がテスト目的から著しく逸脱していない限り不相当とはいえないところ、本件においては、前記二1で認定したとおり、被告渡辺が本件テストの目的に沿って市場調査をした上でテスト対象機種を選定しているのであるから、全機種をテスト対象機種としなかったことにより本件テストが不相当となるものではない。

各採水ごとに原水の水質が検査されていないとの点についても、前記(一)の認定事実によれば、被告センターのキッチン用品テスト室ではクーラーによる室温管理がなされていた上、被告渡辺は、テストごとに室温及び水温を測定していたのであり、各蛇口の水質が本件テスト結果に影響を及ぼすほどに異なっていたことを認めるに足りる証拠はないのであるから、各採水ごとに原水の水質を検査していないとしても、不相当であるとはいえない。

一般細菌テストの対象が長期間本件浄水器中に滞留していた水であるとの原告の主張について検討するに、証拠(証人湯〓博子、被告渡辺本人)によれば、本件浄水器について、平成六年七月五日に通水した後、同月二一日のテスト開始まで一六日間通水されていないことが認められる。しかしながら、証拠(乙八、被告渡辺本人)によれば、同月二一日及び翌二二日に本件浄水器について合計三〇分間通水されたことが認められるのみならず、前記(一)の認定事実によれば、同月二五日に行われた初めの一般細菌テストの採水前にも五分間通水されており、カルシウムのテストも翌八月一七日に行われたのであるから、本件浄水器中に長期間滞留した水が本件テストに使用されたとは認められず、本件テストが不相当であるとはいえない。

以上のとおり、本件テスト方法に関する原告の批判は、いずれも理由がない。

(3) 他の検査機関における本件浄水器のテスト結果と異なるとの原告の主張については、右主張に関係のあるものとして次のとおりのテスト結果があるので(一般細菌数について甲三一の一、同三五、同六三、同六四及び同七一、カルシウムについて甲一七及び同一八)、順次検討する。

ア 一般細菌数

甲三一の一(大田区衛生検査所作成の水質検査結果書)には、浄水器について一般細菌は検出されない旨の記載があるが、浄水器名が明らかではないから、本件浄水器と異なる浄水器である可能性も否定できず、テスト条件等も明らかではない。

甲三五は、砿物科研株式会社が日本食品分析センターに対し、浄水器型式審査試験を依頼したところ、ろ過能力到達時の浄水の一般細菌数は三〇個以下、二四時間滞留後の浄水の一般細菌数は一九〇個であった旨記載されているところ、対象浄水器と本件浄水器の同一性が明らかではなく、また、証拠(甲二二の一)によれば、浄水器型式審査基準では、滞留水について一般細菌テストを行う場合の室温を一五度ないし二五度としていることが認められるが、他方、本件テストにおいては、実験開始時の室温が二六度ないし二九度である上、夜間はクーラーを稼働させていなかったことは前記(一)で認定したとおりであるから、本件テストと甲三五のテストでは、条件が異なっている可能性が高い。

甲六三及び同六五によれば、砿物科研株式会社は、本件浄水器について、東京食品技術研究所に対して一般細菌テストを依頼したところ、二四時間滞留水の通水直後の一〇〇ミリリットルを採取した浄水については六一〇〇個が検出されたが、五リットル通水後に採取した浄水については検出されなかったというのである。しかしながら、右証拠によっても、室温等のテスト条件及び培養法等のテスト方法が明らかではない。

甲六四には、東京食品技術研究所の一般細菌テストの結果として、一万リットル通水後にも一般細菌数が検出されない旨の記載があるものの、テスト機種名が「浄水器リョウチョウB」となっており、これと本件浄水器との同一性が明らかではないのみならず、テスト内容及びテスト条件についても明らかではない。

また、甲七一によれば、原告は、本件浄水器について東京食品技術研究所に一般細菌数のテストを依頼したところ、試験室内温度一五度ないし二五度、標準寒天平板培養法により三五度ないし三七度で二四時間培養した場合のテスト結果は、別紙2記載のとおりであったというのであるが、本件テストにおいては、実験開始時の室温が二六度ないし二九度である上、夜間はクーラーを稼働させていなかったことは前記(一)で認定したとおりであるから、本件テストと甲七一のテストでは、条件が異なっているのであり、これに加えて、右テストの結果については、一〇〇〇リットル通水後に四八時間滞留させた後の浄水から一万四〇〇〇個の一般細菌が検出されているのであるから、右滞留時の室温の差異を考慮すると、必ずしも本件テスト結果と矛盾するものではなく、右テスト結果により、直ちに本件テスト結果が真実でないということはできない。

イ カルシウム量

甲一七(東京食品技術研究所作成の試験検査成績書)によれば、カルシウムについて、水道水は一リットル中二三ミリグラム、本件浄水器による浄水は二四ミリグラムであったというのであるが、テスト条件等が明らかではなく、また、増加量も一ミリグラム(水道水のカルシウム量の約4.3パーセント)にすぎない。

甲一八によれば、砿物科研株式会社の検査結果では、カルシウムは、水道水で一リットルあたり13.9ミリグラム、浄水では20.9ミリグラムというのであるが、浄水については、砿研活性石(MR―7)通過水というのであり、右テストに係る浄水器と本件浄水器との同一性が明らかではなく、また、テスト条件等も明らかではない。

ウ 以上のとおりであるから、右各テスト結果は、本件テストの結果の真実性を左右するものであるとはいい難く、右各テスト結果により、直ちに本件テスト結果が真実でないということはできない。

2  本件記述(1)について

(一) 証拠(甲一の一ないし三、同二八、同五三、同五四、乙一、同二、同三の一、二、同四、同五、同二三、同二七、同三二、同三四、同三七の一ないし四、証人持永泰輔、同鈴木昌二、被告渡辺本人)によれば、次の事実が認められる。

(1) 水道法の水質基準にいう一般細菌とは、標準寒天培地を用いて三五度ないし三七度で二二時間ないし二六時間培養したときに集落を形成するすべての細菌をいうものとされている。一般細菌が検出されなくとも、全く細菌が存在しない状態ではなく、右培養条件下では集落として検出されないというにすぎない。

一般細菌は、一般的には無害な菌が多いが、排泄物中の細菌や伝染菌が混入していることがあり、汚染されている水ほど一般細菌数が多い傾向にあることから、一般細菌数が多い場合、水が汚染され、人間に有害な菌が存在する可能性が高いと考えられている。

そして、水道法においては、水道水中に大腸菌群よりも一般細菌の侵入する機会の方がはるかに多く、それだけ汚染の検出も容易であることから、一般細菌をもって一般的な汚染の指標とし、水道法の水質基準において水道水中の一般細菌数が一〇〇個以下と定めている。他方、大腸菌群は、糞便との関連性が強いことから、糞便性汚染の指標とされ、右水質基準では、検出されてはならないと定めている。

厚生省は、浄水器に関して、右のとおり水道法の水質基準において水道水中の一般細菌数が一〇〇個以下と定められていることから、都道府県等に対し、飲料水に細菌を多量に繁殖させることは衛生上好ましいことではないと通知している。また、埼玉県深谷保健所でも、浄水器から検出される一般細菌数が一〇〇個以下になるよう指導しており、浄水器の型式審査基準においても、滞留水について、業者の指定した時間通水した後の一般細菌数のテストを行うことを定めている。

また、厚生省では、都道府県等に対し、水道法等の適用を受けない井戸水についても定期的に行うべき水質検査の項目として一般細菌数を加える旨通知している。

(2) 本件浄水器の説明書には、「一般細菌を除去する抗菌力」と記載され、また、浄水の抗菌力について「アメリカ製家庭用浄水器『ハーレータウンアンドカントリー』(中略)は、持続的な抗菌力がなく、活性炭により浄化された無菌状態の水中には、直ちに大量の細菌が発生し、(中略)Nは、持続的抗菌力により、長時間使用しなかった場合も浄水器内に細菌は発生しません。(中略)試験結果によれば、浄水器内に七日間滞留した水が無菌状態で持続されていることが証明されています。」、「一般の浄水器では、浄水器の中の滞留水は塩素が除去された結果、殺菌力を失い細菌が発生しやすいと云われますが、Nの浄水器の滞留水については、七日間浄水器の中に滞留した水について、大腸菌群の細菌が発生していないという愛媛県立衛生研究所のテスト結果もあります。」などの記載がある。

(二)  右認定事実によれば、一般細菌に必ず病原菌が含まれているわけではないから、これが一〇〇個を超えたことにより、直ちに飲料水としての安全性を失うわけではなく、本件記述(1)における「汚染されている」との表現は、販売業者にとって酷な表現であるといえなくもない。

しかしながら、前記認定に係る一般細菌の定義によれば、一般細菌から病原菌は除外されていない上、一般細菌として検出されるのは一定条件下で集落を作った細菌のみであるから、集落を作らなかった細菌が他の条件下で繁殖する可能性も否定できない。これに加えて、水道法の水質基準で一般細菌数が規制されていること、厚生省及び保健所で浄水器中の一般細菌数について指導していること、浄水器の型式審査基準において、一般細菌数のテストを行うものと定められていること、塩素消毒を行わない井戸水についても一般細菌数が水質検査の項目に含まれていること、浄水器業界では、浄水器のパンフレットに滞留水中に繁殖した一般細菌を除去するための捨て水の指示が記載されていることを前提として一般細菌数のテストをしていることは前記認定のとおりであるから、これらの事実を総合すると、一般細菌が無害であるとはいえない。また、前記認定の一般細菌の定義によれば、一般細菌には多様な細菌が含まれているのであるが、水道法の水質基準等においては多様な細菌が含まれていることを前提として一般細菌を汚染の指標としているのであるから、一般細菌に含まれる各細菌の増殖する時間が異なることをもって、一般細菌数を浄水器の衛生面の基準とすることが不相当であるとはいえない。

そして、消費者は、浄水器の滞留水についても水道水と同様の安全性を求めていると考えられることに照らすと、浄水器についても水道法の水質基準との比較において衛生面の性能を判断することも相当であって、右水質基準以上の一般細菌が検出されたことから、浄水が汚染されており、衛生的ではない旨の表現を用いて発表することも、なお相当性の範囲内にあるというべきである。

更に、原告は、前記認定のとおり、一般細菌に対する抗菌力を直接表示する説明書(乙三七の三)を作成しており、これ以外の説明書ないしパンフレットについてみても、原告は、本件浄水器の抗菌力の前提として他の浄水器では細菌が発生しやすい旨の記述をしているのであって、これまで浄水器の滞留水中に繁殖するとして問題にされてきたのは一般細菌であるから、たとえ、原告が右説明書の結論部分において、大腸菌群が発生しないと註記していたとしても、一般人が右説明書等を読めば、本件浄水器の抗菌力により一般細菌の増殖を防ぐことができる、すなわち、一般細菌に対する抗菌力もあるとの印象を受けるといえる。したがって、本件浄水器は、一般細菌に対する抗菌力についても表示しているというべきである。

そして、本件浄水器による浄水については、水道法の水質基準を著しく超える一般細菌が検出されたという本件テストの結果が真実であることは、前記1(二)で判示したとおりであるから、「本件浄水器による浄水については、水道法の水質基準を超える一般細菌が検出され、浄化どころか汚染されており、飲料水としては衛生的とはいい難く、表示どおりの抗菌力はなかった」との本件記述(1)は、表現として相当性の範囲内であるというべきである。

(三) これに対し、原告は、本件記述(1)は、不相当である旨反論するので、以下これを検討する。

(1) 原告は、一般細菌は病原菌が含まれず無害であると主張し、証人持永泰輔の証言中には右主張に沿う部分がある。しかしながら、右証言部分は、前記認定の一般細菌の定義に照らし採用できない。

原告はまた、一般細菌数の規制について、食品の衛生に関する各法律における生菌数の規制、諸外国の水道水及びミネラルウォーターに関する基準が我が国の水道水よりも緩やかであることに加えて、一般細菌が空気中にも存在することから、一般細菌は無害であると主張するので、この点について検討するに、証拠(甲八四、同八五、同一二一、同一二二、乙三三、同三四)によれば、食品に関する生菌数の規制については、それぞれの特性(液体か固体か、製造方法、加熱殺菌の有無、流通の条件など)に応じて、規制のないもの、一万個ないし数百万個の一般細菌が許容されているもの、食品中で発育できる微生物が検出されてはならないとされているものなどがあり、培養時間についても、二四時間又は四八時間とされており、また、スウェーデンとインドネシアを除いた諸外国の飲料水の水質基準は、我が国の水道法の水質基準より穏やかであることが認められる。このように、食品については、それぞれの特性に応じて規制の内容が異なっているのみならず、食品に関する生菌数の規制と本件テストでは培養時間が異なるものも存するのであるから、これを無視して一般細菌の有害性を判断することはできない。外国における水道水及びミネラルウォーターについても、各国の気候、もとの水の水質及び配水されるまでの状況等によって規制が異なることは十分にありうるから、他国における規制が緩やかであることをもって直ちに一般細菌が無害であるということはできない。空気中に一般細菌が多数存在していることについても、人体に摂取される形態が異なるのであるから、空気中に一般細菌が存在することをもって直ちに一般細菌が無害であるとはいえない。

なお、証拠(甲一九)によれば、被告センターは、たしかな目六二号では一一九〇個の一般細菌を含むミネラルウォーターについて特に衛生上問題はないと記載していたことが認められ、水道法の水質基準を超えたことで不衛生であるとする本件記述(1)とは、必ずしも一貫しない点もある。しかしながら、水道法の水質基準で一般細菌一〇〇個以内と定めていること、右基準に基づいて厚生省及び保健所が浄水器の衛生面について指導してきたこと、被告センターが本件テスト以前の浄水器のテストにおいて衛生面の判断基準として水道法の水質基準を用いてきたこと、本件浄水器による浄水からは、水道法の水質基準を著しく超える一般細菌が検出されたことは前記認定のとおりであり、証拠(甲一九)によれば、右たしかな目には、ミネラルウォーターを保存した場合に細菌数の増加により不衛生となる旨の記述もあることが認められ、これらを併せ考えると、本件記述(1)の発表は、なお相当性の範囲内にあるといえる。

また、証拠(甲五四)によれば、「明治三七年の上水協議会協定試験法に、細菌聚落数一〇〇個以上のものが飲料不適と定められたのは、緩速ろ過池のろ過効率と関連して定められたのであって、この場合には病原菌が含まれていないことが前提である。」という趣旨の記載があることが認められるが、これは、右基準に関しては病原菌が含まれていないことを前提にしていたというにすぎず、一般的に一般細菌には病原菌を含まないということまで述べた記述とは認められないから、前記(二)の判断に影響を及ぼすことはない。

(2) 次に、本件テストについては、水道法の水質基準の場合とテスト条件が異なり不相当であるとの原告の主張について検討するに、水道法の水質基準の場合には、水温二〇度ないし二五度という条件下で一般細菌数をテストすることとされており、二六度以上の室温で採水された本件テストとは実験条件が異なるから、本件テストの結果について水道法の基準を適用することは、原告に酷である面もないとはいえない。

しかしながら、前記1(一)の認定事実によれば、被告渡辺は、原水の一般細菌数がいずれの場合も、二〇個以下であることを確認しているのであり、他方、本件浄水器による浄水からは、水道法の水質基準を著しく超える一般細菌が検出されているのであるから、本件記述(1)の発表をすることも、なお相当性の範囲内であるというべきである。

(3) また、被告センターが大腸菌群についてテストを行わなかった点については、一般細菌は一般的な汚染の指標、大腸菌は糞便性の汚染の指標であることは前記(一)で認定したとおりであって、水道法の水質基準で規制されている目的が異なるのであるから、本件テストにおいて大腸菌群の個数についてテストが行われなかったとしても、テスト方法として不相当であるとはいえない。

(4) 以上のとおりであるから、本件記述(1)が不相当である根拠に関する原告の主張はいずれも採用できない。

3  本件記述(2)について

証拠(甲一の一)によれば、本件浄水器の説明書には、「活性石から溶出する天然のミネラル成分を、水道水のミネラル分に付加して溶出するバランスのとれた天然のミネラルウォーターだから」との記載があるとともに、水道水と本件浄水器による浄水のミネラル成分(PH値以外はいずれも一リットルあたりのミリグラム数・ppm)の比較表が掲げられていること、右比較表には、カルシウム、マグネシウム、カリウム、鉄、全炭酸、PH値の順に七項目について記載されているが、鉄以外の項目については、いずれも本件浄水器による浄水の方が水道水よりも数値が高く、カルシウムについては、水道水が13.9、本件浄水器による浄水が20.9と記載されていることが認められる。

右「付加」及び「溶出」という文言及び右比較表の記載内容に照らすと、右説明書の記述は、一般消費者に対し、ミネラル分が量的に増加するとの印象を与えるものであり、特にカルシウムについては、13.9ppmから20.9ppmに増加することを具体的に示しているものと認められるから、たとえ、原告が本件浄水器の説明書において別途ミネラルバランスについて言及していたとしても、カルシウムが増加しない場合に、表示どおりの効果がなかったと記述することは相当というべきである。

そして、前記認定のとおり、本件テストの結果、カルシウムについては、原水は15.9018ppm、本件浄水器による浄水は15.9172ppmであること、本件テストが学術論文作成のためではなく一般消費者に情報を提供することを目的とした実験であることを併せ考えると、「本件浄水器による浄水については、カルシウムの量は水道水と変わらなかったので、表示どおりの効果はなかった」との本件記述(2)は、厳密な意味において真実ではないとしても、表現として相当性の範囲内にあるというべきである。

4  以上のとおり、本件テストの結果は真実であり、本件記述(1)及び(2)は、相当であるから、争点3に関する被告らの主張は、理由がある。

四  争点4について

被告センターが本件テストの結果が記載された本件小冊子を関係官署に送付したことは、当事者間に争いがない。しかしながら、前記三1(二)で判示したとおり、本件テストの結果が虚偽であると認めることはできない。したがって、その余の点について判断するまでもなく、争点4に関する原告の主張は、理由がない。

第四  結論

以上の次第で、原告の請求は、その余の点について判断するまでもなく、理由がないからいずれも棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官飯田敏彦 裁判官端二三彦 裁判官古谷健二郎)

別紙1および2<省略>

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